Sunday, April 21, 2013

A review from today's Mainichi Shinbun by Yukiko Kōnosu asking: "Whatever happened to the humor?"


Ellsworth Kelly 1923 http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Ellsworth_Kelly_-_Red_Yellow_Blue_White_and_Black_-_Google_Art_Project.jpg

今週の本棚:鴻巣友季子・評 『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』=村上春樹・著

毎日新聞 2013年04月21日 東京朝刊


血を流す傷と対峙する“無色の男”の物語

 文学には異性関係を超越したプラトン的ソウルメイト(片割れ同士のような魂の友)が描かれてきた。トリスタンとイゾルデ、キャサリンとヒースクリフ。その調和は完璧であるほど生身の世界を離れ死に近づく。村上の小説でも『1Q84』の天吾と青豆、『国境の南、太陽の西』の「僕」と島本さんなどがそれに中(あた)るだろう。こうした深い絆を持ちうるのは男女二人とは限らない。『ノルウェイの森』では、直子とキズキというカップルに主人公が加わり「三人だけの小世界」を形成し、最新作ではそれが五人の男女混合ユニットになった。主人公を除き姓に色が入っており、アカ、アオ、シロ、クロと呼ばれるが、ミスター・ブルー、ミス・ホワイトなどとも書かれ、村上もよく知る米作家ポール・オースターの『幽霊たち』を即(ただ)ちに想起させる。二人連れで街を歩く恋人を目撃する場面など、下敷きにした部分もあるかもしれない。
 名古屋の進学校に通う五人の「乱れなく調和する共同体」の中で、名前に色のないつくるは自分だけが「色彩の希薄な」取(と)り柄(え)のない人間と感じていたが、鉄道の駅舎造りを学ぶため、仲間と離れ東京の大学へ入学。あるとき突然、訳もわからず四人に絶縁され、自殺を考える。半年後、生きる気力を辛うじて取り戻し、卒業後は念願の駅舎建設の仕事について一見優雅な三十六歳の独身男に。二歳年上の恋人沙羅から、あなたの過去の傷はまだ血を流している、「記憶は隠せても、歴史は消せない」と喝破され、四人と対峙(たいじ)する巡礼の旅へ出る(なにせ沙羅はその問題を克服しない限りもう寝てくれないと言うのだ!)。
 とはいえ四人の消息を調べあげお膳立てしたのは恋人で、主人公は過去作群の男性たち同様おおかた受け身であり、おなじみの性夢でも女性にお任せ。また女性が妊娠途絶し後に死に至る(瀕(ひん)する)というセットパターンも踏襲されている。「その闇はどこかで、地下のずっと深いところで、つくる自身の闇と通じあっていた」など村上作品特有の言い回しも鏤(ちりば)められ、作者のテーマやモチーフを集約した感もある。
 つくるは仲間から弾(はじ)かれた後、灰田というこれまた色の名をもつ下級生と友だちになり、灰田の父が体験した不思議な話を聞かされる。そこには、取引を持ちかける悪魔のような男が登場する。灰田とのエピソードは唐突に始まり唐突に終わる。

No comments:

Post a Comment